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機械安全規格 ISO 12100 解説|産業機械設計・製作時の必須知識

産業機械の設計・製作において、安全性の確保は最も重要な要素の一つです。愛知県知多郡武豊町を拠点とする株式会社氣聖工業では、マテハン機器のメンテナンス、大型機械の据付工事、機械設計製作を通じて、製造業の安全性向上に貢献しています。今回は、機械安全の基本規格であるISO 12100について、設計・製作に携わる技術者の皆様に向けて詳しく解説いたします。
 

ISO 12100の概要と重要性

 

国際機械安全規格の基本概念

 
ISO 12100は、正式名称を「Safety of machinery – General principles for design – Risk assessment and risk reduction」といい、機械類の安全性に関する国際的な基本規格です。日本では、JIS B 9700:2013「機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減」として整合規格が制定されています。
 
この規格は、機械安全規格体系において最も重要な「Aタイプ規格(基本安全規格)」に位置づけられており、すべての機械設計・製作において適用されるべき基本原則を定めています。愛知県のような製造業が集積する地域では、特にその重要性が高く評価されています。
 

規格制定の背景と目的

 
ISO 12100が制定された主な目的は以下の通りです。
 

ISO 12100の制定目的

仕様の範囲内で安全である機械を設計することを可能にするための包括的な枠組みとガイダンスを提供する
A規格であるISO 12100に整合するB規格およびC規格を戦略的に作成するための指標を提供する
機械の設計者に対して、リスクアセスメントとリスク低減のための実践的な手法を明示する

 

リスクアセスメントの基本概念

 

安全の定義とリスクの考え方

 
ISO 12100では、「安全」を「許容不可能なリスクがないこと」と定義しています。これは、絶対的な安全は存在しないという前提に基づいており、残留リスクを社会的に許容できるレベルまで低減することで安全を達成するという考え方です。
 
リスクは「危害の発生確率とその危害の重大さの組み合わせ」として定義され、以下の要素から構成されます。
 

危険源(Hazard)

定義:危害を引き起こす潜在的な源

例:機械的危険源、電気的危険源、熱的危険源など

危害(Harm)

定義:身体的な傷害又は健康障害

範囲:軽傷から重篤な障害、死亡まで

リスク(Risk)

計算式:リスク = 発生確率 × 危害の重大さ

評価:定量的または定性的手法で判断

「参照:ISO12100リスクアセスメント解説」
 

機械安全規格の階層構造

 
ISO 12100は、国際安全規格体系の最上位に位置するA規格として、以下の階層構造を形成しています。
 

Aタイプ規格(基本安全規格):全ての機械類に適用できる基本概念と設計原則
Bタイプ規格(グループ安全規格):広範な機械類に適用できる安全面を規定
Cタイプ規格(個別機械安全規格):特定の機械に対する詳細な安全要求事項

 

 

リスクアセスメントの実施手順

 

4つの基本ステップ

 
ISO 12100では、リスクアセスメントを以下の4つの手順で実施することを規定しています。
 

① 機械の制限の決定

使用の制限:機械の使用方法、目的、性能の明確化

空間の制限:設置環境、作業空間の特定

時間の制限:使用期間、ライフサイクルの定義

② 危険源の同定

機械的危険源:押しつぶし、切断、巻き込み等

電気的危険源:感電、アーク放電等

その他:騒音、振動、熱、化学物質等

③ リスク見積り

重大度評価:軽微、重大、致命的の分類

確率評価:頻繁、時々、稀の分類

暴露評価:接触頻度と時間の評価

④ リスク評価

許容性判断:社会的に受け入れられるレベルか

対策必要性:リスク低減の要否を決定

継続改善:定期的な見直しと更新

「参照:オムロン リスクアセスメント手順」
 

危険源の分類と実例

 
ISO 12100では、機械に存在する危険源を体系的に分類しています。愛知県の製造業で特に重要な危険源には以下があります。
 

主要な危険源の例
機械的危険源

「切断」による「鋭利な端部」
「押しつぶし」による「運動エネルギー」
「巻き込み」による「回転部分」

電気的危険源

「感電」による「充電部」
「火傷」による「アーク放電」

熱的危険源

「火傷」による「高温材料との接触」
「凍傷」による「低温材料との接触」

 

3ステップメソッドによるリスク低減

機械製造 

ステップ1:本質的安全設計方策

 
本質的安全設計は、リスク低減の最優先手法です。機械の設計段階で危険源そのものを除去または低減する方策で、以下のような手法があります。
 

幾何学的要素の最適化:鋭利な端部の回避、適切な間隔の確保
物理的側面の改善:作動力の低減、騒音レベルの低減
材料の適正選定:耐腐食性、応力特性の考慮
制御システムの改良:故障確率の最小化、診断システムの採用

 

ステップ2:安全防護及び付加保護方策

 
本質的安全設計だけでは十分にリスクを低減できない場合に適用する手法です。
 

安全防護

固定式ガード:機械的固定による恒久的防護

可動式ガード:インターロック付きアクセス制御

保護装置:ライトカーテン、安全マット等

付加保護方策

非常停止装置:緊急時の即座停止機能

エネルギー遮断:残留エネルギーの安全な除去

警報装置:危険状態の事前通知

「参照:オムロン リスク低減手順」
 

ステップ3:使用上の情報

 
ステップ1、2でも十分にリスクを低減できない場合、残留リスクについて使用者に情報提供を行います:
 

取扱説明書:適切な使用方法、保守手順の明記
警告ラベル:残留リスクの明確な表示
訓練要求:作業者の教育・訓練の推奨
保護具推奨:個人保護具の使用指導

 

愛知県製造業での実践的適用

 

地域特性を考慮した機械安全

 
愛知県は全国有数の製造業集積地域として、自動車関連産業をはじめとする多様なものづくり企業が立地しています。この地域特性を活かしたISO 12100の適用には、以下の観点が重要です:
 

愛知県製造業での重要ポイント
自動車産業向け機械

高速プレス機械の安全防護設計
組立ライン自動化装置のリスクアセスメント
品質検査装置の人間工学的配慮

航空宇宙産業向け機械

精密加工機械の振動・騒音対策
特殊材料加工時の化学的危険源対策
クリーンルーム環境での安全設計

一般産業機械

マテハン機器の搬送安全システム
重量物据付時の安全防護措置
保守メンテナンス時の安全確保

 

継続的改善と文書化

 
ISO 12100では、リスクアセスメントとリスク低減の過程を適切に文書化し、継続的に改善することを求めています。特に以下の文書化が重要です:
 

リスクアセスメント報告書:実施プロセスと結果の記録
リスク低減措置記録:採用した対策の詳細と根拠
残留リスク一覧:使用者への情報提供内容
定期見直し記録:継続的改善の履歴

 

 

まとめ

 
ISO 12100は、産業機械の設計・製作において安全性を確保するための包括的な枠組みを提供する重要な国際規格です。愛知県のような製造業が盛んな地域では、この規格に基づいた機械安全の実践が、労働災害の防止と生産性の向上に直結します。
 
株式会社氣聖工業では、ISO 12100の原則に基づいた機械設計・製作、安全なメンテナンス作業、適切なリスクアセスメントの実施を通じて、愛知県内外の製造業の皆様の安全で効率的な生産活動をサポートしています。機械安全に関するご相談や、ISO 12100に準拠した機械設計・製作についてのお問い合わせは、ぜひお気軽にご連絡ください。
 
機械安全は、設計段階から運用、保守、廃棄まで、機械のライフサイクル全体を通じて考慮すべき重要な要素です。ISO 12100の理解と実践により、より安全で信頼性の高い産業機械の実現を目指しましょう。

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株式会社氣聖工業
〒470-2361 愛知県知多郡武豊町多賀1丁目9-2
TEL:0569-77-4198 FAX:0569-77-9039
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